×

[PR]この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。

4月の恋人たち

 寒い。
今日からは、もう4月。
暦の上では、とっくに春のはずだが、一向に暖かくなる気配は見えない。
冷たい風が、毒々しい色に光るビルの間から吹き、僕たちを叩くようにして走り去る。

 寒い。
それは、どうやら僕だけの思いではないらしい。
隣を歩く桜も、デパートの中では僕に持たせていた真っ黒なコートを今ではぎゅっと体に密着させている。

 寒い。
神は気まぐれを起こして、春夏秋冬を入れ替えてしまったのだろうか?
そんな思いさえ起こさしてしまうほどの寒さだった。

 そして、これももしかして神の気まぐれだったのかもしれない。
今になれば、そう思う。
というのも、この瞬間、ため息が白から透明へと変わったこの瞬間まで、一度たりともこんなこと考えすらしなかったのだから。

「どうしたの、春樹?」
 急に立ち止まった僕を、不思議そうに見つめる桜。
 勝負は、既に始まっている。

「桜、ごめん」
 できるだけ深刻そうに。
彼女に、見破られないように。

「どうしたの、春樹?」
 ここまでは、何とか見破られていないらしい。
 ここからが、重要だ。
彼女の目を見ないように気をつけて、

「桜、ごめん。今決心したんだ。実は、別の人が好きなったんだ。ごめん、一方的過ぎるとは思うけど、もう、別れよう」

 こんな感じでよいだろうか?
うん、我ながらよい演技かもしれない。
 己の中に隠れたサディスティックな蛇が、首をもたげる。

 さあ桜、うろたえてくれ。

 だが、彼女の返答は予想すらできなかった言葉だった。

「よかった。 あたしもね、別れたいなぁって思ってたんだけど、いつ切り出そうか困ってたの」

「……え?」

 うろたえたのは、僕の方だった。
いまひとつ、現状がつかめない。
目を見開き、彼女の顔を見つめる。
そこにあったのは、太陽のような笑顔だった。

「嘘、だよな?」

 やっとのところで出せた言葉を、桜は真っ向から否定した。

「何でそんなくだらない嘘を言わなくちゃならないのよ? 第一、あんたが言い始めたことでしょ?」

「あれは、エイプリルフールで…」

 消え入るような声でつぶやく。

「そう、それはお気の毒に。でもね、残念ながらあたしは本気よ。 んじゃ、明日学校でね」

 彼女はバイバイ、と手を振り、冷たい風の中へと消えていった。

 足が力を失う。
近くにあった噴水の縁に崩れるようにして座り込み、頭を抱える。

「どういう、ことだ?」

 別にどういうことでもない。
ただ桜に振られた、それだけの話だ。
 雪のような白い息を吐く。
体中の熱が、それと共に抜けていくような気がした。

「…帰るか」

 寒さに耐えられなくなり、誰とへも無くつぶやく。
立ち上がると、氷のような風が、僕の頬を打った。
 と、そのとき、

「あははははは」

 ポン、と背中を叩かれると同時に、弾けるような笑い声が、背後から聞こえた。

「あははははは」
 振り向くと、いや、振り向かずとも声の主はわかっていたのだが、桜がいた。
 今度こそ、僕は戸惑う。

どういうことだ?

「桜」

 動けぬままの僕に、彼女は突然抱きついた。

「ばか」

 耳元で、そう囁かれた。

「ほんとに、ばかね、あんたは」

 その声は、春の日差し。
凍った心を、ゆっくりと溶かすような、そんな声。

「4月馬鹿だってことぐらい、見抜きなさいよね」

 それから、優しい桜色の声で、

「あたしが好きなのは、あんただけよ、春樹」

 …ようやく、理解した。
ったく、ミイラ取りがミイラになったよい例だ。

本当に、僕は馬鹿だ。
正真正銘の、馬鹿だ。

「ごめん、桜」

 本当に、ごめん。

「わかれば、いいのよ」

 僕から、離れる桜。

「そういえば、春樹、」

「何だ?」

「もう、7時ね」

「そう、だな」

 何かいやな予感が…

「あたし、ステーキたべたいなぁ」

「わかった。んじゃスカイラーク行くか」

「…ケチ」

「エイプリルフールだって。 ほら、この前ステーキ専門店だか見つけただろ? あそこに行こう」

 片手で温かな桜の右手を掴んで、もう他方でポケットの中の財布を確認しなら、僕たちは輝かしいネオンの道をあるいてゆく。
 
 春は、すぐそこなのかもしれない。

去年書いたやつですが、ふと思い出したので、うpしました。
今年は4/1に間に合ったぜ!
もともと携帯用に書いたので改行多いですが、直すのも面倒なのでそのままにしときましたv

そういえば、スカイラークって懐かしいですね...

戻る